葬式の作法、自治会費、草刈り…
住民総出の草刈りや行事の手伝い、祝儀や香典の相場など、これまで“暗黙知”とされてきた地域の慣習やしきたりを明文化した冊子「集落の教科書」の作成が各地で進む。移住者が集落になじみやすくなる他、自らの地域ルールの見直しにもつながるなど効果が見えてきた。
包み隠さず次代へ
集落の教科書は、京都府南丹市日吉町の「世木地域振興会」が2015年、同市で中山間地域支援を進めるNPO法人テダスに委託して発行。世木地域は4集落で750人が暮らす。近年、移住希望者が増えていることを踏まえ、住民らが「田舎暮らしの現状を知ってほしい。良いこともそうでないこともちゃんと伝えたい」と考え、地域独自に伝えられてきた慣習やルールを集落の教科書としてまとめることにした。
集落の教科書では、4集落の特徴から農家班長、自治会長など役員の決め方、集落全員が参加して行う草刈りなど「日役」と呼ばれる自治活動の詳細、葬式の手伝いなどを集落ごとに解説。子育てに関する自治体の支援や農地転用の仕組みなども説明し、電話帳も付けた。「強いルール」「ゆるいルール」「慣例や風習」「消えつつあるルール」など4段階で守るべき基準も添え、徹底的に丁寧に分かりやすく、包み隠さず世木地域の情報を紹介したのが特徴だ。
ルールは時代や住民数などとともに変化することから、現在までに第4版まで改定されている。同市の集落支援員、浅田徹雄さん(66)は「移住者がなかなか聞きにくいことを基礎知識として伝えるのにとても便利で重宝されている」とPR。 3年前に移住した、山ガイドの前田敦子さん(42)は「移住してすぐにお葬式があって、手伝いの方法や香典面でも参考になった。自治会費の情報も細かく載っていてありがたい」と話す。
集落の教科書の作成を呼び掛けた同NPOは、自治会長や長老、子ども、農家と、多くの住民に取材してルールを聞き取った。一つのルールをとっても、住民によって意見が異なることもある。NPOの事務局長、田畑昇悟さん(36)は「住民の集まる場で、何が正しいかではなく、次世代に残したいルールは何かという観点で議論して教科書を作り上げた」と明かす。
移住希望者向けに地域の魅力をPRする冊子やちらしは全国で作成されるが、地域の暗黙知である作法やしきたりを明文化した冊子はほとんどない。このため集落の教科書は口コミで広がり、同地域やNPOには講演依頼や視察が相次いでいる。NPOによると、現在、同地域を手本に「集落の教科書」は市内の近隣地域の他、亀岡市、石川県七尾市、宮城県丸森町の集落でも作成。この他、作成準備中の地域もあるという。
石川県七尾市の高階地区では、地域おこし協力隊員の任田和真さん(28)らが今春、「あいさつ回り」のしきたり、町会費や「玉串料」、役員の任期や決め方などの情報を集落ごとに記した集落の教科書を作成した。全戸350戸に配布し、移住希望者にも配っている。
任田さんは「移住希望者にとっては“地域のリアル”を知ることができる。既に移住している人には、より地域になじむための情報源になる。そして地元の人にとっては、改めて明文化し近隣集落のルールと比較することで、地域を見直すきっかけになる」とメリットを実感している。
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Source : 国内 – Yahoo!ニュース